この問いに「なくなりません」と即答する記事は、信用しないでください。 実際には、なくなると主張する人も、残ると主張する人も、それぞれに筋の通った根拠を持っています。この記事では両論を正確に紹介したうえで、保険営業に固有の事情を整理します。
この記事でわかること
- 「営業はいらない」派の具体的な根拠
- 保険営業にとって、いちばん都合の悪い指摘
- 「残る」と言われている働きは何か
- 保険営業に固有の事情
- いま危ないのはどういう人か
- 今日から取れる備え
「なくなる」派は、何を根拠にしているのか
感情論ではありません。数字と構造の話です。

この議論が広がったきっかけの一つが、大手コンサルティング会社が公表した「日本の営業生産性はなぜ低いのか」というレポートでした。日本の営業1人あたりの売上高の低さを指摘し、課題として挙げられたのは次の点です。
- 昔から続く「お客様第一主義」の文化に潜む非効率
- 営業の時間の使い方
これが拡散されたとき、ネット上には「やり方がアナログなのでは」「無駄な業務が多い」といった反応に混じって、「そもそもAI時代に営業っているのか」という声が出ました。
つまりこの問いは、AIの性能が上がったから出てきたのではありません。もともと非効率だと言われていた仕事に、代替手段が現れたという順序です。
『営業はいらない』の著者で日本創生投資代表の三戸氏は、10年もすれば営業は不要になると主張しています。テレビ番組での議論から、根拠を整理します。
| 根拠 | 内容 |
|---|---|
| 購買行動の変化 | BtoBの購買担当でも、7割ほどがネットで情報を得て、必要なものを大体決めてからアプローチする |
| 価値観の可変性 | 「対面でないとダメ」はコロナで一掃された。あれは単なる価値観だった |
| レビューの信頼性向上 | ステマは審査で弾かれるようになり、レビューの精度は上がっている |
| データによる代替 | 企業情報をクロールしてAIに分析させれば、ニーズの推定は相当な精度で出る |
「対面でないと通じない人は残る」という反論に対する再反論も明確でした。コロナのような外圧が来た瞬間に、全員が一斉に切り替わる。一定の閾値を超えれば全体が動く——。
これは実際に起きたことなので、否定しづらい指摘です。
保険営業にとって、いちばん都合の悪い指摘
議論の中で、最も痛い発言がありました。
グローバルパートナーズの山本氏は、「営業は残る」側の論者です。その同氏が、こう線を引いていました。
僕は法人営業なので、個人向けはAIに取って代わられるだろうなと思っています。
理由も述べられていました。個人が消費や投資をする動機は、趣味嗜好を含めて多岐にわたる。だから営業がプッシュで「これがあなたにおすすめです」と言うのは失礼になりうる。一方、法人は利益という1つの目的で存在しているから、社長にプッシュしても問題ない——。
保険営業の多くは個人向けです。 「残る」側の論者ですら、そこは置き換わると見ている。ここから目を逸らすべきではありません。
ただし、前提が違う可能性はあります
同氏の論理は「個人の購買動機は趣味嗜好で多様だから」という点に立っています。
保険はどうでしょうか。買う動機は趣味嗜好ではありません。家族の生活、事業の継続、万一のときの備え。動機はむしろ法人に近く、一つの方向を向いています。
だとすれば、山本氏の論理をそのまま保険営業に当てはめるのは早い。これは私の解釈であって、同氏がそう述べたわけではありません。ただ、当てはまるかどうかを考える価値はあります。
置き換わらないのは、あなたの何か
抽象的に考えても答えは出ません。12の質問に答えると、あなたの強みと、それを言葉にした自己紹介文が3パターン出てきます。所要15分。
「残る」と言われている働き
残るのは職種ではなく、特定の働き方です。
山本氏が挙げていたのは、この3つでした。
1. 商品を作る働き
「営業マンは物を売る仕事ではなく、物を作る仕事だ」というのが同氏の主張です。
営業は訪問しても半分以上は売れない。そのとき「次にこうだったら買います」を聞き取って、未来の商品を作っている。顧客に最も近い場所にいるのが営業だから、そこが失われると企業は新しいものを作れなくなる——。
同氏は「ただ売るだけの営業はいらなくなる可能性がある。しかし事業や商品を作る営業は100年後もある」と述べていました。
2. 場の空気からキーマンを察知する働き
商談中、社長がちらちら別の人を見ている。この会社の決裁の鍵はこの人だと察知して、社長への営業をいったん止めて、その人と話す。
同氏はこれをAIにはできない例として挙げていました。
3. 聞かれたこと以外を提案する働き
「求人をどう出せばいいか」と聞かれて事務所を見渡し、「求人の前に社員の笑顔が足りない。教育と社内の仕組みを変えましょう」と返す。
顧客が求めたAではなく、BやCを持っていく。これが営業の仕事だという整理でした。
保険営業に固有の事情
業界特有の要素が2つあります。
一つ目は手続きの存在です。意向把握、比較推奨、募集人の権限説明。これらは法令や業界ルールに基づく手続きであり、記録として残す必要があります。
AIは書類の下書きを作れますが、その内容に責任を負うことはできません。責任を負う主体としての募集人は、制度上残ります。ただしこれは「仕事が楽になる」という意味ではなく、「責任だけが残る」可能性も含んでいます。
二つ目は扱う情報の重さです。既往歴、家族関係、収入。これらを外部のAIに入力できない以上、AIに渡せる情報の範囲が構造的に限られます。この制約は、他業種より置き換えを遅らせる方向に働きます。
とはいえ、どちらも「だから安心」という話ではありません。遅らせる要因があるだけで、方向が変わるわけではないと考えたほうが安全です。
いま危ないのは、こういう人
残念ながら、はっきりしています。

議論の中で共通していたのは、こうした指摘でした。
| 危ない | 理由 |
|---|---|
| マニュアル通りの説明しかしない | AIのほうが正確で速い |
| 商品知識だけで戦っている | 検索とAIで代替される |
| 顧客の言ったことにだけ応える | 御用聞きはツールで足りる |
| 対面であること自体を価値だと思っている | コロナで価値観は一度崩れた |
山本氏は「絶対AIに変わらないと思っている人は、3年後5年後に辛いことが起きるかもしれない」と述べていました。「営業は残る」と主張している側の人の言葉です。
私自身、この議論を見ていていちばん堪えたのはここでした。自分の仕事のどこがマニュアル通りなのかを、正面から数えたことがなかった。 数えてみると、思っていたより多かったというのが正直なところです。
今日から取れる備え
不安を消す方法はありませんが、位置を測ることはできます。
順番に3つ。
一つ目は、自分の作業を分解すること。 1週間の業務を書き出し、「AIができること」「自分にしかできないこと」に仕分けます。仕分けができないうちは、対策の立てようがありません。
書き出した業務は、AIに仕分けさせると早く済みます。
あなたは業務改善のコンサルタントです。
以下は保険営業である私の1週間の業務リストです。
次の3つに分類し、それぞれ理由を1行で添えてください。
A:いまのAIで代替できる
B:AIが下書きを作り、人が確認すれば足りる
C:人でなければできない
#条件
・Cに分類したものは「なぜAIにできないか」を具体的に書いてください
・私に都合よく判断せず、厳しめに分類してください
#業務リスト
〈ここに書き出した業務を貼る〉
「厳しめに分類してください」の一行を入れてください。入れないとAIは気を遣って、Cを多めに返してきます。
二つ目は、AIができる側を実際にAIに渡すこと。 文書作成、面談記録、資料の下書き。手順は保険営業のAI活用7選と保険営業の議事録AIにまとめました。渡してみると、思ったより渡せる範囲が広いことに気づきます。
三つ目は、残った側を鍛えること。 ここが本題です。空気を読む、聞かれていないことを提案する、次の商品につながる本音を引き出す。いずれも訓練できます。
そもそも会う相手をどう見つけるかについては、保険営業の新規開拓にAIは効くかで効く場面と外す場面を分けました。
自分がいま何点なのかは測れます。AIを顧客役にしたロープレの手順は保険営業のAIロープレにまとめました。平均は38点でした。
よくある質問
Q1. 結局、保険営業はなくなるのですか
分かりません。断定している記事は、なくなる派・残る派のどちらも根拠を出し切れていません。確かなのは、マニュアル通りの説明だけをしている働き方が置き換わるという点で両者が一致していることです。
Q2. あと何年くらい今のやり方が通用しますか
議論の中では「数年でほとんどできる」という見方と、「アナログでないと通じない人は残る」という見方が対立していました。年数を断定できる材料はありません。
Q3. AIを使えば安泰ですか
いいえ。AIを使うのは前提条件になりつつあるだけで、差別化にはなりません。使ったうえで、浮いた時間を何に使うかが問われます。
Q4. ベテランと新人、どちらが不利ですか
一概に言えません。ベテランは経験という代替しにくい資産を持つ一方、やり方を変えにくい。新人は身軽ですが、蓄積がない。変える意思があるかどうかが、年齢より効きます。
Q5. 代理店の経営者として、何をすべきですか
まず社内の業務を棚卸ししてください。誰がどの作業に何時間使っているかが分からないと、どこが置き換わるかも判断できません。手順は保険代理店のAI導入手順にまとめています。
まとめ
要点を整理します。
- 「なくなる」派の根拠は購買行動の変化とデータによる代替。感情論ではない
- 「残る」派の論者ですら、個人向け営業は置き換わると見ている
- 残ると言われるのは職種ではなく、商品を作る・空気を読む・聞かれていないことを提案するという働き
- 保険営業には手続きと情報の重さという固有事情があるが、方向を変えるものではない
- 危ないのは、マニュアル通りの説明しかしていない人
不安に対して、都合のよい結論を出すつもりはありません。ただ、位置を測ることはできます。 まず1週間分の業務を書き出すところから始めてください。
置き換わらない側を、言葉にできますか
「自分にしかできないこと」を残そうにも、それが言語化できていなければ守りようがありません。
12の質問に答えると、あなたの強みと、それを初対面で伝える言葉が3パターン出てきます。LINEで無料配布中。
参考にした情報源
- 「【営業】AI時代に必要な仕事?生き残るには?ゾス山本康二社長と議論|アベプラ」(三戸政和氏・山本康二氏の討論)
- 本文中の見解は各発言者に帰属します。将来予測は断定できるものではありません

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